Oという男の話をさせて頂きます。
私がこのOと出会ったのは、とあるバー。彼も私もそのバーの常連でこれまでに50回くらいは一緒にお酒を飲んだことでしょう。
さて、このOという男なのですが、彼は私がこれまでの人生で出会った人間の中で、間違いなく3本の指に入る空気の読めない男です。
彼の空気の読めなさはもはや「空気が読めない」という次元を超えて、「ヤバいやつ」と言った方が良いでしょう。
そのヤバさを象徴するエピソードをいくつかご紹介させて頂きます。
- 誕生日サプライズをみんなで計画していた時に、祝われる予定の本人に対して「いや、これは内緒なんだよな。言っちゃダメなんだよなぁ。ああ言いたいけど言えないんだ。でも明日(誕生日当日)には何かがあるかも知れないね」とバレバレなことを言い出す。
- 女性から挨拶されれると「あの子、俺に気があるよね?」と言い出す。さらに、その女性に対して「俺のことを好きになってくれるのは嬉しいけど、ごめん。Aちゃんが俺のこと好きだから付き合えないんだ」と宣言する。もちろんAちゃんもOのことを好きではない。
- どんな相手に対しても「まぁ、俺が奢ってやるよ」という先輩面をする。そのくせ奢るのを忘れて帰る。
- ペットの犬が死んでしまい泣いている女性に対して「犬より猫の方が可愛いと思う」と言い出す。
- 赤の他人の会話に何の前振りもなくツッコミを入れる。
- スノボー旅行の計画の話で盛り上がっている時に、なぜかボウリングの話を始める。
- 「痛風になっちゃったんだよね……」と悩んでいる男性に対して「ビールでも飲んで忘れましょ!」と言い出す(ビールは痛風の原因)
- 趣味はキャバクラ。行くたびに「あの子は俺に気がある」と必ず言っている。
- ラッセンの絵を2枚持っている。理由はお察し(ラッセンの絵は、よく詐欺に使われる)
- 最近急に「それは違うじゃろ!」というような「じゃろ」というツッコミをするようになる。ちなみに好きなお笑い芸人は千鳥。
- 「彼氏が結婚してくれない」と悩む女性に対して、「結婚って単純じゃないからね。好きなだけじゃ上手くいかないよ」と謎の説教をする。ちなみにOは40代中盤の未婚。
このように彼のヤバさは若干常軌を逸脱しています。
特に女性に対しての思い込みに酷さは酷く、これまでに何度「いい加減にしろ」と注意をしたか分かりません。
しかし、これほどヤバい男でありながら彼とバーで会えば話はしますし、私以外の客もOとそれなりに仲良くしております。
意外かも知れませんが、彼と仲良くしているのは男性だけではありません。女性もまたOとそれなりに仲良くしているのです。
彼が空気の読めない発言をするたびに周囲から「バカ」だの「黙れ」だの暴言は絶えませんが、それでも彼は「友達」と呼べるくらいの関係をバーの中で築き上げているのです。
私も彼との出会いは衝撃でした。
先ほどのエピソードをご覧頂ければ分かると思うのですが、彼は常軌を逸してヤバいのです。
しかし、それほどまでにヤバいOといまだに何だかんだ言って仲良くしているという事実が私の中で衝撃的でした。
おそらく彼のこれらのエピソードを読んだだけの皆様は「こんな奴とは死んでも仲良くしたくねえ……」と感じていらっしゃることでしょう。
私も彼のエピソードだけを見たら、間違いなく仲良くなれるとは到底思えません。
ですが実際に彼と会っていると、そんな彼を私はそれなりに許容していたのです。
「会ってみると不思議な魅力があって引き込まれる」というような魔性の魅力が彼にあるわけではありません。
「エピソードがバカすぎて逆に面白い」というような個性が彼にあるわけでもありません。
先ほどのエピソードはかなり短くまとめましたが、彼の話は長い上に分かりにくく、決して笑えるものではないのです。
嫌いな人がいない
それでは今回いただいたご質問を紹介させて頂きましょう。
【ご質問】
はじめまして。
私は空気を読んで動くことが苦手です。
空気自体が読めても、自分はどうしたらいいのかわからず、止まってしまったり黙ってしまったりしてしまいます。
更に私は人との会話が上手くできません。
自分の話をすれば、話が上手くまとめられず「◯◯って言いたいんだよね?」「え、どういうこと?」と聞き返され、更に自信のなさから声が小さくなってどんどん伝えられなくなってしまいます。
逆に聞き役に回ろうとすれば、相手へ質問責めになるか、「へー、そうなんだー」で会話が止まってしまいます。
気が効かず話し下手なため、周りの方がフォローしてくださることが多く、結果周りを振り回してばかりになっています。
なんとか周りのためになりたくて、頑張って率先して動いてみても不自然で空回りしたり、仕事の請負を申し出ても断られてしまいます。
周りの方は優しく大人なので、あからさまに口にすることはありませんが、表情からして私と一緒にいると疲れると思われていると思います。
いい歳にもなって、いつまでもこんな自分のままなのは恥ずかしいです。
どうしたら周りに気を遣われない人になれるでしょうか。
よろしくおねがいします。
26歳女性
今回のご質問を見て、私は最初に「会話テクニック」的なものをご紹介させて頂こうと思いました。
しかし、それを書いている途中で、ふと「O」のことを思い出したのです。
信じられないほど空気が読めず、そして信じられないほど話が下手なOという男。
そんな彼とどうしてそれなりに仲良くすることが出来るのかということを考えていると、ふと、あることに気が付いたのです。
「最近、嫌いな人がいないな」と。
私は最近、嫌いな人があまりいません。
ツイッターには私の悪口を言っている方もいらっしゃいますが、そういった方のことも別に嫌いではないのです。むしろ「一緒に飲みに行きたいな」とすら思っているという意味では好意に近いものすら感じているかも知れません。
とはいえ、これは何も私が善人だと言いたいわけではないのです。
事実、学生の頃や社会人になりたての頃は嫌いな人がたくさんいました。
その数はおそらく皆様の比ではありません。
「周囲の人に恵まれるようになった」という意見を否定するのは少々失礼な気もしますが、客観的に考えてこの説も正しいものではないでしょう。
私の交友関係は社会人になりたての頃とそこまで変わっておりません。
ですので周囲に恵まれているだけであれば、私は社会人になりたての頃から嫌いな人はいないはずなのです。
しかし当時はたくさんいたはずの「嫌いな人」が今ではいなくなっていることを考えると、変わったのは交友関係ではなく私自身なのでしょう。
それでは私が一体どのように変わったのかといえば、それは「人を嫌いになりたい」と思わなくなったのだと思います。
学生の頃や社会人になりたての頃の私には「人を嫌いになりたい」という欲望がありました。
だからこそ「嫌いになれそうな人」を見つけては「あいつは嫌いだ!」と思うようになっていたのでしょう。
それがいつの間にか「人を嫌いになりたい」という欲望が私の中で薄れ、「嫌いな人探し」をしなくなり、人を嫌いにならなくなったのです。
もちろん今でも「話が合わない人」や「信じられないほど会話がつまらない人」と出会うことはたくさんあります。
ですがそれは「話が合わない」というだけの話で、その人が嫌いかどうかという話ではありません。
話は合わないし、そもそも何言ってるか分からないけど、別に嫌いでは無い。
一緒にいれば話が分からないなりに話をするし、仲が良いかと聞かれれば「良い」と言える。
綺麗事かも知れませんが、嫌いな人がいるかいないかというのは周囲の環境以上に、自分がどれほど人を嫌いになりたいかということも重要なのだと思います。
もちろん世の中には救いようのないほどの悪人や、水と油も裸足で逃げ出すほど相性が悪い方もいますので、そういう人と私が出会ったら、今の私でもその人のことを嫌いになることでしょう。
しかし、救いようのないほどの悪人や、信じられないほど相性が悪い相手というのは決して多くはありません。
1000人に1人なのか1万人に1人なのかは分かりませんが、決して大きな数ではないのは間違い無いでしょう。