「でもよォ……他の動物ならたいがい持ってる能力じゃねえのか?
自分と同じ「種」かそうでないかを見分けるぐらいのことはよ……」
岩明均著 寄生獣8巻 157ページより引用
初めてその男性を見た時、私は何か不気味なものを感じました。
おそらくは数十万円はするであろう青いスーツに身を纏い、バラを片手にこちらに紳士的な笑みを向けているその人物は誰の目から見ても魅力的な男性でした。
しかし、同時に理性ではない本能的な部分でその男性にそこ知れぬ恐怖を抱いたのもまた間違いありません。
何かがヤバい。
何がヤバいのか分からないけれど、何かがヤバい。
その男性は久保裕丈。
バチェラージャパンの初代バチェラーに選ばれた久保裕丈さんの凄さを今回は語ろうと思います。
注意
この記事にはバチェラージャパン1のネタバレが含まれます。
またあくまでも筆者の感想と考察であることをご理解いただければ幸いです。
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プロデューサーの苦悩
1人のハイスペック男性(バチェラー)を25人※1の女性が奪い合う恋愛バラエティー番組であるバチェラーは2002年にアメリカで始まりました。
そして2017年。
大人気番組であったバチェラーはアマゾンプライムの配信として日本に上陸することになりました。
それではバチェラージャパンという番組を、番組のプロデューサー目線に立って考えてみましょう。
あれだけ大量の広告が打たれたことからも、バチェラージャパンはアマゾンプライムの切り札の1つとして用意されていたことは間違いありません。
すでにネットフリックスやHuluなどの有料動画配信サービスが普及している中で、アマゾンプライムという動画配信サービスを普及させるためには独自のコンテンツが必要不可欠でした。
既存の映画やバラエティはすでにネットフリックスなどに買い占められてしまっていたのです。
ですので彼らが持っていない新しいコンテンツを作ることで、アマゾンプライムは市場の獲得を狙ったのでしょう。
その1つこそがバチェラージャパンなのです。
実際にバチェラージャパンをご覧になれば、アマゾンが物凄く気合を入れて番組を作っていることが簡単にお分かり頂けることでしょう。
予算の掛け方が半端なものではありません。
豪邸・ヘリコプター・クルーザー・リムジン・飛行機・気球などなど。
バブル期のテレビ番組のような予算の使い方をバチェラーはしているのです。
さて、それではこれの状況を踏まえてバチェラーのプロデューサーがどのような立場にあったのか考えてみましょう。
「アマゾンプライムの切り札」
「潤沢な予算」
「膨大な広告」
「世界中で人気のシリーズ」
これだけの条件が揃っていて失敗したら、これはもう「ごめんなさい」では済みません。
少なくともプロデューサーとしての名声は地に落ちることでしょう。社内での出世の道は断たれ、業界で干されるかも知れません。
少々過大な表現になりましたが、プロデューサーにとって「絶対に失敗できない番組」であったのは間違いないでしょう。
それではバチェラーという番組の成否を決める最も重要な要素とは一体何でしょうか?
これは1つしかありません。
バチェラー役の男性です。
そもそもバチェラーという番組は「全ての女性が憧れるような白馬の王子様」がいるからこそ成立する番組なのです。
25人の女性が1人の男性を巡って競い合うなんていう異常な光景を成立させるためには、圧倒的なバチェラーを用意しなくてはなりません。
逆に言えば、魅力的なバチェラーさえ用意できれば、それ以外の要素はさほど重要ではないのです。
ですのでプロデューサーにとって最大の問題は「どうやって魅力的なバチェラーを用意するのか」ということになるでしょう。
それでは魅力的なバチェラーを用意することがどれほど難しいことなのかを解説させて頂きます。
まずバチェラーに選ばれるために「絶対に必要な条件」をまとめさせて頂きました。
1)独身であること
これは番組としての大前提です。
2)経済力があること
最低でも年収2000万円ほどは欲しいところ。なお年収が低くても多額の資産があれば問題ありません。
3)外見に優れていること
芸能人レベルである必要はありませんが、少なくとも「イケメン」と言われるくらいの能力は必要でしょう。
4)身長がそれなりにあること
180cmなどの高身長である必要はありませんが、175cmくらいは欲しいところ。
5)コミニケーション能力があること
番組として成立する程度に女性をエスコート出来ないといけません。
これ以外にも必要な条件はいくつも御座いますが、少なくともこの5つは必須でしょう。この時点でバチェラー探しに相当苦労することがお分かり頂けると思うのですが、実はこれはまだ前段階なのです。
それでは仮に先ほどの5つの条件を満たす男性が見つかったとしましょう。
問題なのはこの後です。
経済的に余裕があり、普通の人よりも仕事をしていて、どう考えても女性に困っていないであろうバチェラー候補の男性に番組へ出演してもらうためにはどうすれば良いでしょうか?
バチェラーの撮影は大体2ヶ月程度ぶっ通しで行われるそうです。暇な大学生ならともかく、そんなスケジュールを魅力的な社会人であるバチェラーに抑えてもらうのはあまりにも困難であると言わざるを得ません。
もしもバチェラーが貧乏であったのであれば、お金を積んで出演してもらうことも出来るでしょうが、バチェラーは経済力に溢れた男性なのです。お金で釣られるようなことはまずあり得ません。
また魅力的な25人の女性に囲まれた生活もバチェラーには大した魅力には映らないでしょう。
これだけのスペックを兼ね揃えているのです。どう考えたって女性に困っているはずがありません。
そのためバチェラーに出演してもらうには金でも女でもない何かを用意しなくてはならないのです。
久保裕丈の物語
【問題】バチェラージャパン1で久保裕丈さんの心を射止めたのは誰でしょう?
【正解】プロデューサー
それではバチェラージャパンの初代バチェラーに選ばれた久保裕丈さんのスペックを一緒に確認してみましょう。
1981年東京生まれ。番組出演時は35歳。
海城中学(偏差値65)・海城高校を経て東京大学工学部(偏差値67.5)に進学。その後、東京大学大学院修士課程を終了。
2007年にATカーニー(初任給660万円。平均年収1660万円)に就職。2012年に女性向けアパレルECサイトのミューズコー株式会社を設立。2015年に同社を17億円でmixiに売却。
誰がどう見ても完全にハイスペックな男性なのですが、これだけの条件を兼ね揃えた久保裕丈さんは一体何故番組に出演したのでしょうか?
おそらくその答えは「CLAS」にあるでしょう。
CLASというのは久保さんがバチェラー出演後に起業した会社で、家具の月額レンタルを行っております。
おそらく久保さんはこのCLASを成功させるためにバチェラーに出演をしたのでしょう。もちろんそれ以外にも様々な理由があったのは間違いありませんが、その最たる目的の1つにCLASがあったのは間違いありません。
このことはバチェラー出演後の久保さんのインタビューにも明確に書かれております。
認知度が上がることで、新しいことにチャレンジする際のメリットになると思い、出演を決意しました
この「新しいこと」はCLASのことを指すのでしょう。
もちろん久保さんはフリーのコンサルや外部顧問などもされているので必ずしもCLASだけではないと思いますが、自分のビジネスのために自分の知名度を上げようとしていたのは間違いありません。
つまり久保裕丈さんは「真実の愛」とか「結婚」だけを考えてバチェラーに出ているわけではないのです。
もちろん表面上はそう取り繕いますし、結婚願望が全くないということはないでしょうが、主目的に結婚を置いていないことは間違いありません。
これこそが久保裕丈さんに出演してもらうために最も重要な要素で御座いました。
バチェラーという番組を通じて、久保さんは自分の知名度を獲得しようとしている。つまりバチェラージャパンの広告があれほどまでに打たれたのは久保さんにとっても明確にメリットのあることだったのです。
このことはバチェラーのメイン画像を比較することでより理解して頂けることでしょう。
バチェラージャパン1のメイン画像がこちら
こんな画像をメイン画像にする時点でバチェラー1が久保裕丈のための物語であったのは明白でしょう。この画像には久保さん以外何1つ写っておりません。宣伝としてこの画像を世の中にたくさんばらまくことこそが、久保裕丈さんが出演した最大の理由なのです。
一方でバチェラー2の画像がこちら
そして3がこちらになります。
この3つのメイン画像を見比べれば、その差は歴然でしょう。
バチェラー1のあのメイン画像こそが久保裕丈さんがバチェラーに出演した最大の理由なのです。
この画像はバチェラーの宣伝として、アマゾンの広告費で日本中にばら撒かれました。
2の小柳津さんや、3の友永さんの顔を知らなくてとも、私たちが久保裕丈さんの顔を知っているのはこのためなのです。
そしてこの3枚のメイン画像は、結果的にそれぞれのバチェラーを非常によく表すことになりました。
バチェラー1は久保裕丈の物語。
バチェラー2は男と女の物語。
バチェラー3は女たちの物語。
バチェラー1は久保裕丈という天才の物語なのです。
ですのでバチェラー1は久保裕丈という男の立場に立って見なければ、その真の面白さを理解することは出来ません。
バチェラー1の主役は何を置いても久保裕丈さんなのです。久保さんのために集められた25人の美女たちは、久保裕丈という天才を彩るための脇役に過ぎません。
プロデューサーと久保裕丈
普通のドラマやバラエティの場合、出演者は基本的にプロデューサーに逆らうことが出来ません。
キャスティングを握っているプロデューサーに嫌われてしまったら、業界から干されてしまうのです。
ですがバチェラーという番組において、そのパワーバランスは完全に崩れてしまっていることでしょう。
何故ならば久保さんは替えが効かない人材なのです。
「久保さんがウザいから他の人を用意しよう」なんていうことが出来るような人材ではありません。
プロデューサーが死ぬ思いで探し出し、交渉に交渉を重ねようやく出演してもらえた久保さんにプロデューサーは頭が上がらないのです。
また久保さんはそもそも芸能界の人間ではないので、プロデューサーから嫌われたとしても大した実害は御座いません。
普通のタレントさんや芸能人であれば「プロデューサーに嫌われたら業界から干されるかも」という不安が付き纏いますが、久保さんの場合、干されたところで大した実害はないのです。
ですのでバチェラージャパンの撮影時には、久保さんのためにかなり便宜が計られたことでしょう。
もちろん番組の撮影中に久保さんが横柄な対応を取っていたという意味ではありません。むしろ久保さんほど頭の良い方であれば、番組中もスタッフさんに対してかなり丁重な対応をされたことでしょう。
しかし、それでもスタッフ側は久保さんの機嫌を損ねないように勝手に色々と気を使ってしまうのです。
この構造が見えてくるとバチェラージャパンという番組にヤラセがないことが分かるでしょう。
事実上の最高権力者である久保さんにヤラセをお願いできる人などおりません。女性陣にヤラセをお願いすることは出来るかもしれませんが、番組の進行が久保さんの渡すバラによって支配されている以上、女性陣にヤラセをお願いしてもあまり意味はないでしょう。
それに久保さんレベルの人材になれば、例えプロデューサーがわざわざお願いなどしなくとも、勝手に空気を読んでくれるものなのです。
「視聴者の目にどう写るか」ということをきちんと考えている久保さんは、プロデューサーに言われなくても「番組にとって都合の良い立ち振る舞い」をしてくれます。ですのでわざわざプロデューサーが久保さんにお願いする必要など御座いません。
※1 女性の人数はシリーズごとに異なります。