「結婚をしろ」という両親のプレッシャーに悩む方は非常に多いことでしょう。
結婚を煽ることに定評のあるゼクシィすら「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」というキャッチコピーを打ち出すほど結婚が必須ではなくなった今日でも、いまだに「結婚をしろ」という言葉に悩まされている方が多いのは一体なぜでしょうか?
人の考え方は変わらない
人間の性格はおおむね30〜35歳で固まると言われております。
もちろん個人差は御座いますし、50になっても60になっても柔軟な方もいらっしゃいますが、平均的に見れば30歳くらいで考え方は固まってしまうのです。
ですのですでに35歳を超えている方を説得しようと思っても、ほとんど意味がないと考えた方が良いでしょう。
残念ながら、ある程度年齢のいった人間の考え方は変わらないのです。
もちろん多少の変化を起こすことくらいは出来るでしょうが、根本的な性格や幼い頃に学んだ道徳などは変えようと思って変わるものでも御座いません。
これは「人間の脳の構造」という生物学的な理由も御座いますが、それ以外に心理的な問題もあるでしょう。
例えば私が50歳になるまでずっと「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」※1という宗教を信じていたとします。
スパゲッティ・モンスター教は食事を頂く際に「ラーメン(本当)」とお祈りをするのですが、そんなことを50歳まで続けていたとしましょう。
それでは私が50歳になったときに、何かしらの理由で「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」が間違いであると証明されたら、私は一体どうするでしょうか?
スパゲッティモンスター教が間違っているということを認めてしまうと、50年間の自分の行動が間違っていたことを認めてしまうことになるのです。
人間は過去の自分の行動を否定できるほど強い生き物では御座いません。
そしてそれはその行動が長ければ長いほど難しくなると言えるでしょう。
ですので、残念ながら多くの人間はある程度の年齢になると自分の考えや信念を変えることが出来なくなってしまうのです。
これはその考えや信念が正しいかどうかなどということは関係ありません。
「自分の人生の間違いを認める」ということが出来るのは、本当に限られた方にしか出来ないことなのです。
※1 空飛ぶスパゲッティ・モンスター教:2005年に誕生した実在する宗教。
社会の考えを変えるには、人に死んで貰う必要がある
地球が1年間に1回太陽の周りを回っているという地動説。
今でこそ地動説は多くの地域で※2常識として考えられておりますが、つい500年ほど前までは地球は止まっていて、太陽や星々が地球の周りを回っているという天動説が信じられていました。
確かに地球から見れば太陽や星が動いているように見えるので、そう考えるのも当然でしょう。
古代ギリシアの賢者の中にはアリスタルコスのように地動説を考えた人もいましたが、その考えは長い間、一般には普及しませんでした。
この考えが変わるには16世紀を待たなくてはなりません。
1543年カトリック教の司祭であったコペルニクスは「天体の回転について」という本で地動説を主張しました。
しかし、コペルニクスが本を書いても地動説はすぐには普及しません。
コペルニクスの後にガリレオ・ガリレイなどが地球が回っている証拠を見つけるのですが、それでもそう簡単に地動説は普及しなかったのです。
何故ならば人はある程度の年齢になると考えを変えることが出来なくなってしまうから。
ですのでどれほどガリレオやコペルニクスが主張しても天動説を信じている人間の考えを変えることは出来なかったことでしょう。
それではその後どうして地動説は一般的になったのでしょうか?
その答えはインベスターZという漫画の中で解説されています。
天動説から地動説にかわったのは、地動説派が天動説派を粘り強く説得してかえさせたんじゃないんです。
天動説を信じる人たちがみんな死んで……この世からいなくなったからなんです。
つまり天動説を信じている人の意見が変わったのではなく、天動説を信じている人が死んだからこそ社会の考え方は変わったのです。
現実問題として社会が変わるためには、前の世代の方に死んで頂かなくてはならないのです。
例えば戦争を考えてみましょう。
日本に限った話ではありませんが、戦争が起こるとその国の社会は大きく変わります。
もちろん戦争のインパクトがあまりにも大きいという理由もあるでしょうが、人が死ぬということも非常に大きな原因でしょう。
戦争はたくさんの人を殺します。
特に敗戦の場合は例え生物的に生き残ったとしても、戦争中に力を持っていた人が社会的に抹殺されるので社会の考え方が変わるのでしょう。
革命も同じで御座います。
革命家が人をたくさん殺すのは、その人間の考えを変えることが出来ないと知っているからという側面もあるのです。
その最たる例は毛沢東・スターリン・ポルポトに代表される共産主義の独裁者たちでしょう。
良し悪しはともかくとして、社会が変わるためには人に死んで頂かなくてはなりません。
もちろんその死とは独裁者による処刑ではなく、単純な寿命であるべきであると思いますが、人が死ななくては社会の考えはそう簡単に変わらないのです。
※2 天動説:2014年の調査によると未だにアメリカ人の25%は天動説を信じているとされる。
考えが変わるための3ステップ
「社会の考えが変わるためには人が死ななくてはならない」とお伝えさせて頂きましたが、私は社会が変わるためにはそれに加えて3世代の時間が必要であると考えております。
それでは日本人の結婚観について3つの世代に分けてみましょう。
まず第1世代は未婚否定派。
結婚こそが幸せであり、結婚しない人間は一人前ではないというような考えを持っている方がこの世代に該当します。
それでは具体的に何歳以上の方がこの第1世代に該当するのでしょうか?
厚生労働省の平成25年度厚生労働白書によると70歳以上の49.2%、60代の36.7%、50代の25.5%が「結婚をしなくてもいい」という意見に反対をしているそうです。
60代と50代の間に大きな差が御座いますので、ここで世代が分かれていると言えるでしょう。
さて、それでは次に第2世代でございます。
第2世代は第1世代の子供の世代で御座いますので、第1世代の子供が何歳くらいなのかを考えれば範囲を決めることができるでしょう。
日本では平均して25〜30歳くらいで子供を産む方が多いので、1世代の年齢差は約30歳と計算が出来ます。
もちろん第1世代の頃は出産年齢が今よりも早かったのですが、第1世代は2人3人と子供を産んでいたので、平均すれば30歳くらいと考えても問題ないでしょう。
第1世代は60歳以上の方で御座いますので、そこから30を引くと第2世代は30歳〜59歳くらいになると分かります。
そして同じように第2世代から30を引くことで第3世代も分類することが可能です。
つまり0歳から29歳までが第3世代に分類されるでしょう。
さて、先ほどのデータは平成25年度の資料であり、2009年の調査を元に資料を作成しているので、2019年の今日では年齢を10年足さなくてはなりません。
つまり70歳以上が第1世代、40歳から69歳が第2世代、10歳〜39歳が第3世代、そして10歳未満が新たな第4世代になるのです。
第1世代 | 第2世代 | 第3世代 | |
年齢 | 70歳以上 | 40歳〜69歳 | 10歳〜39歳 |
生年月日 | 1949年(昭和24年以前) | 1950〜1979年(S25〜S54) | 1980〜2009年(S55〜H21) |
考え方 | 結婚しろ! | 結婚しなくてもいい | 結婚しなくてもいい |
独身反対派の割合 | 42.95% | 18.9% | 12.2% |
人口 | 2,618万人 | 5,237万人 | 3,894万人 |
※平成25年度 厚生白書のデータを元に計算。人口は2018年の国勢調査より。
今回はこの3つの世代をそれぞれ「戦後世代(第1世代)」「バブル世代(第2世代)」「平成世代(第3世代)」と呼ばせて頂きます。
行動と考えが一致しないバブル世代
それでは先ほどの3つの世代に分けて、日本における結婚観について考えてみましょう。
そもそも今の日本で「絶対に結婚した方がいい」という考えを持っている方は、圧倒的に戦後世代に多いのです。
逆その戦後世代の子供にあたるバブル世代の方で「絶対に結婚した方がいい」という考えを持っているのはわずか19%。平成世代の12%と比較してもほとんど差は御座いません。
それではこれらの世代が一体どのような価値観で人生を歩んできた考えてみましょう。
まず戦後世代で御座いますが、この世代が20代の頃に「結婚をしない」なんていう選択肢はほとんど存在いたしませんでした。
この世代が20代だった1970年の男性の生涯未婚率はわずか1.7%ですので、結婚をしないという選択肢が存在しなかったのは間違いありません。
次にバブル世代ですが、この世代はすでに「結婚しなくてもいい」という考えを持っている世代で御座います。
戦後の教育や女性の社会進出など様々な要因は考えられますが、ともかくデータを見る限りこの世代は「絶対に結婚すべきだ!」という価値観をそこまで持ち合わせていないのです。
しかし、第2世代にあたるバブル世代は非常に大きな問題を抱えておりました。
それは親との価値観の違い。
バブル世代の方は「結婚しなくてもいい」という価値観を持っているのですが、その親世代にあたる戦後世代は「絶対に結婚すべきだ」という考えを強く持っているのです。
ですのでバブル世代の方は両親から「早く結婚しろ!」という強いプレッシャーを受けている世代であると言えるでしょう。
しかしこれが第3世代の平成世代になると状況は変わってきます。
親世代のバブル世代も「結婚だけが幸せじゃない」という価値観を持ち合わせているのです。ですのでこの世代はバブル世代と比較すると「早く結婚しろ!」というプレッシャーを受けにくい世代であったと言えるでしょう。
これこそが「社会が変わるには3世代かかる」という言葉の意味で御座います。
戦後世代からいきなり平成世代へと考え方を変えることは出来ないのです。
戦後世代から平成世代へと考えが変わるためには「結婚しなくても良いと思っているけど、親がめちゃくちゃうるさいから仕方なく結婚する」というバブル世代の存在が必要不可欠であると言えるでしょう。
戦後世代 | バブル世代 | 平成世代 | |
結婚観 | 絶対に結婚すべき | 結婚しなくてもいい | 結婚しなくてもいい |
両親の結婚観 | 絶対に結婚すべき | 絶対に結婚すべき | 結婚しなくてもいい |
結果 | 結婚する | 結婚しなくてもいいと思っているものの、両親がうるさいので結婚を選択することがある。 | 結婚しない人も多い |
・戦後世代(第1世代)→結婚以外の選択肢など存在しない世代
・平成世代(第3世代)→結婚しなくてもいい世代
・バブル世代(第2世代)→結婚しなくても良いと思っているのに、親が口うるさく「結婚しろ!」と言ってくる世代。
→バブル世代こそが「早く結婚しなさい!(戦後世代)」の最大の被害者
「結婚こそが幸せ」は2030年まで
社会の意識が完全に変わるためには3世代の年月が必要です。
これは結婚に限った話では御座いません。
・元々の価値観を持っている世代
・新しい価値観を持っているものの、上の世代に逆らえない世代
・新しい価値観を持っている世代
この流れがなければ社会は変わりません。
それでは「結婚しなければいけない」という価値観が変わるのはいつになるのでしょうか。
戦争や大量処刑でも起こらない限り、社会の価値観はある日急にガラッと変わるなんてことは起こりません。
「結婚こそが幸せである」という戦後世代(第1世代)の方が徐々にお亡くなりになっていき、世の中の価値観は変わるのです。
戦後世代は現在70歳以上の方で御座いますので、日本の平均寿命※3を考えるとあと10年ほどでこの世代はお亡くなりになるでしょう。
つまり「結婚こそが幸せだ」という価値観が消滅するのは10年後。
おそらく2030年ごろになると思います。
もちろん2030年を待たずしてお亡くなりになる方も非常に多いでしょうから、日々少しずつ「結婚こそが幸せである」という価値観が希薄になっていくのは間違いありません。
第2世代は板挟み
バブル世代。
1950年から1979年までに生まれたこの世代の方は、結婚という面において板挟みの世代であったと言えるでしょう。
社会の流れは「結婚だけが幸せじゃない」というものに変わり始めていたものの、戦後世代のご両親様から「結婚しろ」と言われ続けていた世代なのです。
そんなバブル世代の方が非常に辛い思いをされたことは間違いありません。
しかし、これはもう残念ながら不運であったとしか言えないのです。
何かが変わるときは必ず板挟みになる「第2世代」が誕生してしまうのは避けられません。
確かに「結婚」という価値観に関して言えば、バブル世代の方は板挟みの第2世代になってしまいましたが、他の価値観で言えばバブル世代の方が第1世代であったり第3世代であるとも言えるのです。
例えばサービス残業に代表されるような日本の労働環境について言えば、平成世代が第2世代になっていると言えるでしょう。
逆に軍国主義的な思想は戦後世代の方が第2世代で御座いました。
自分がどの変化の第2世代になるのかということは、残念ながら運としか言いようがありません。
第2世代の責務
例えば皆様が高校の野球部に入部したとしましょう。
そして皆様の1つ上の先輩は鬼のように怖い先輩で拷問のようなしごきをしたとします。
さて、そんな先輩も卒業して皆様が先輩になった年、皆様は新しく入ってきた後輩にどのような教育をするでしょうか?
自分たちも辛かったのだから、後輩も厳しく教育しようと思うのか。
それとも後輩たちには自分たちのような苦しみを味わって欲しくないから優しく教育するのか。
人は自分が辛い思いをすると、その経験を正当化するために「あの辛さは正しかったのだ」と考えるようになることが御座います。
そのため辛さを正当化するために後輩にも辛く接してしまうことが多いのですが、これでは先輩と何も変わりません。
負の連鎖を断ち切らなければならないのです。
辛さを正当化するのではなく、あの辛さは間違っていたから自分はそうならないようにしようと考えなければ、負の連鎖は止まりません。
バブル世代の方は結婚の価値観で板挟みの苦しさを味わった世代でしょう。
しかし、もしも辛かったのであればその負の連鎖を是非とも止めて頂きたいのです。
もしもその辛さを次の世代に強いてしまったら、そのときはバブル世代が「結婚の第1世代」と言われてしまうことでしょう。
第3世代の責務
私は平成2年(1990年)生まれで御座いますので、今回の分類で言えば平成世代(第3世代)に分類されます。
幸運にもバブル世代である私の両親は私に結婚を急かすようなことを言ったことが御座いません。もちろん平成世代でも両親から結婚を急かされて苦しんでいる方はたくさんいらっしゃると思いますが、バブル世代の頃に比べれば少ないのは間違い無いでしょう。
結婚の価値観に関して言えば、私たちは幸運な世代に生まれたのです。そしてそれは私たちの代わりにバブル世代の方々が苦しんでくれていたからということに他なりません。
さて、幸運にも第3世代に生まれた私は「結婚だけが幸せではない」という価値観を持ち合わせております。
そして私は考えの変化をそこで止めるように心がけております。
「そこで止める」というのはどういう意味かと言うと「結婚だけが幸せじゃない」という価値観を「結婚は不幸だ」という価値観にしないように心がけているということ。
「したい人はすればいいし、したくない人はしなければいい」という価値観で止めているのです。
もしもこれが「結婚は不幸だ」というところまでエスカレートしてしまうと、私は第4世代である令和世代から「絶対に結婚するなと口うるさい平成世代(アンチ結婚第1世代)」と思われてしまうことでしょう。
こうなってしまったら、やっていることは戦後世代と何も変わりません。
言っていることが逆なだけで、人に何かを強制するという意味でやっているいることは同じなのです。
第2世代の苦しみ
社会が変わるためには3世代必要である。
これは何も結婚の価値観に限った話では御座いません。
戦争のような大量に人が死ぬような事件も発生しない限り、社会はそう簡単に変わらないのです。
何故ならば人間はある程度の年齢に達してしまうと、考え方が極めて硬直してしまうから。そのためその世代がお亡くなりにならない限り、社会の価値観はそう簡単に変わったりはしないのです。
例えばラブホテル業界は未だに発注の多くをファックスで行なっております。
このご時世にファックスなんて信じられないかもしれませんが、未だに注文用紙を印刷してペンで数を書き、ファックスで送るなんていう旧世代的なことをやっているのです。
これもまたファックス世代がお亡くなりになっていないからでしょう。
ホテルの現場スタッフも発注を受けている卸会社もメールでの発注の方がいいと思っているのですが、第1世代が未だにギャーギャーうるさいのです。
ですので彼らが第一線を退き世代交代が起きるまで、この文化は継続されてしまうことでしょう。
このように世の中の大抵の文化は第1世代がお亡くなりにならない限り変わりません。
この「亡くなる」というのは生命的な話だけではなく、引退や倒産によるその社会からの追放も含まれているのですが、いずれにしても第1世代に消えて頂かないと社会は変わったりしないのです。
今、この文章を読んで「うちの会社も第1世代が厄介なんだよ!」と思った方は是非ともご注意くださいませ。
人間は自分が第1世代になっている時、そのことに気がつくことが出来ないのです。
私は結婚の価値観の第3世代であり、
ラブホのファックス文化の第2世代であり、
そして何かしらの文化の第1世代なのです。
第1世代はそれが不変の常識であると思っているので、なかなか自分が第1世代であることに気が付けません。
第3世代はすでに新しい価値観の世界で生きているので、なかなか自分が第3世代であることに気が付けません。
第2世代だけが気が付けるのです。
変化しつつある社会の中で、板挟みになっている人だけが気がつくことが出来るのです。
皆様は第何世代でしょうか?
もしも自分が第1世代であったなら、少しでも第2世代の負担を軽減できるようにご配慮いただければ幸いです。
もしも自分が第3世代であったなら、第2世代の苦しみがあったからこそ自分が第3世代になれたことに感謝をして頂ければ幸いです。
そしてもしも皆様が何かの第2世代であったなら。
苦しい世代であるのは間違いありません。
ですがどうかその苦しみを次の世代に引き継がないようにして頂ければ幸いです。
私たちは皆、何かの第1世代であり、何かの第2世代であり、そして何かの第3世代なのです。