【お悩み相談第6回】正論戦争

【ご質問】

初めまして。

会社に入ってから「そんな正論じゃ通用しないよ」と言われることが非常に多いです。

「正しいことだけじゃ通用しない」という理屈は分からなくもないですが、どうして正論はダメなのでしょうか?

【回答】

ご質問誠に有難うございます。

今回はご質問者様に「正論」とは何か、ということをお伝えさせて頂ければと思います。

さて「第二次世界大戦」について少しお話をさせて頂きましょう。

第二次世界大戦の原因

皆様は第二次世界大戦の原因が何かご存知でしょうか。

もちろん「ヒトラー」がナチスを結成し、ポーランドに侵攻したというのは事実で御座います。これに対してイギリス・フランスがナチスに宣戦布告したというのが第二次世界大戦の開戦の流れであることは間違い無いのですが、それではそもそも一体なぜ「ドイツがポーランドに侵攻したのか」ということを考えると、その原因はヴェルサイユ条約に行き着くことでしょう。

ヴェルサイユ条約とは第一次世界大戦を終結させた条約で「ドイツを死んでも許さない条約」と言えば条約の内容の9割の説明がつきます。ちなみに残りの1割は「世界から戦争をなくす条約」なのですが、その後の歴史を見れば、ほとんど役にも立たなかったことは明らかでしょう。 

さて、そんな「ドイツを死んでも許さない条約」ことヴェルサイユ条約でございますが、具体的にどのくらい絶対に許さない内容だったかということが如実にわかる事実を一つお伝えさせて頂きます。

1919年に調印されたヴェルサイユ条約で、ドイツには多額の賠償金を”外貨”で支払うことになったが、2017年現在でも厳密にはまだ終わっていない(ただし請求されていないので、2010年以降支払っていない)。

 端的に言ってやりすぎました。あれから98年経っているのに、まだ支払いが終わっていないのです。この条約の結果、ドイツは経済が壊滅。

ドイツ国民は明日のパンのために死に物狂いになりナチスドイツを生むことになりました。

  歴史に「もし」はありませんが、”もし”ヴェルサイユ条約がもう少し甘い条約であったなら、第二次世界大戦は起きなかったかもしれません。

逆に”もし”ヴェルサイユ条約の条文に「ドイツ人は無条件で全員殺す」という一文があったら、良し悪しはともかくとして、それはそれで第二次世界大戦は起きなかったかもしれません。

窮寇勿迫

それでは今回の本題に入りましょう。

今回のテーマは、ズバリ「窮寇勿迫」で御座います。これは「きゅうこうぶつはく」と読み、孫子の兵法に登場する言葉。「追い詰められた敵を攻めるな」という意味で御座います。

一見すると「可哀想だから追い詰めるな」という意味にも思えますが、そんな甘い言葉では御座いません。この言葉の意味は「追い詰めすぎると、色々とろくなことがない」という自分のための言葉で御座います。

ドイツの例が判りやすいでしょう。ドイツはそもそも第一次世界大戦で敗北し、十分に追い詰められておりました。

そこに決定的な追い討ちをかけるヴェルサイユ条約で追い詰めるとどうなるか。そんな約束は完全に反故にされ、再び戦争を仕掛けれるのです。

ちなみにこのヴェルサイユ条約で厳しい処分を下すことに反対していたのが、イギリス首相のロイド・ジョージ。

余談ですが私が個人的に一番好きな政治家で御座いますので、もしよければ名前くらい覚えて頂けると大変嬉しく思います。

さて、窮鼠猫をも噛む、と言いますが、ネズミにしても人間にしても、追い詰めると相手は死に物狂いで戦いを仕掛けてくるのです。そんな状況になっても誰も得をしないので、決して弱っているものを追い詰めるな、ということ。

正論にはこの恐ろしさが御座います。

そもそも正論なんて、大人なら誰でも知っているのです。

そうにも関わらず正論がまかり通っていない、ということは、どう考えても”真っ当”ではない事情があるから。

確かに”真っ当”ではないとは言え、事情があることは間違い御座いません。

その事情を鑑みない恐ろしさが正論には御座います。

【例えばツイッターなどではよく「残業代をしっかりと払い、福利厚生をしっかりすれば業績が向上する。それをしたら潰れる企業はそもそも潰れるべき」みたいな「正論」が御座いますが、間違いなく正論でしょう。

全くもって正論で御座いますね、そんな企業は潰れるべきでしょうね。

多くの企業が倒産し、日本経済は徹底的に落ち込み再就職もままならないでしょうね。

一体その正論で、何人の職を奪い、その家族の食を奪い、そして何人を殺すおつもりですか?

長い目で見ればそれが正しいのかも知れませんが、その長い目で物事が変わるための「痛み」を自分が受けるとなったら誰もが怒るのです。

自分の次の世代がやればいい、と仰ることでしょう。】

 

この【】内の文章こそが相手を叩き潰す正論で御座います。

普通の大人は「日本のブラック企業が簡単に福利厚生を充実させるなんてことは出来ないということを知っているけど、日々の生活が辛いからせめてネットでは自分の会社の悪口を言わせてくれ」と思って「福利厚生残業代をしっかりしろ!」と言っているのです。

それを私が【】の正論で叩き潰してしまったら、そんなもの全力で私に食ってかかってくるに決まっているではありませんか。どっちが正しいとか、どっちが正論とか、そんなことはどうでもいいのです。 

ブラック企業を潰せ!という内容を「正論」で主張したら、ブラック企業の経営者の皆様が「死に物狂い」で社員と敵対します。

逆に「ブラックにいる社員が悪いんだ!」という内容を「正論」で主張したら、今度はその社員の皆様が「死に物狂い」で戦いを仕掛けてくる。

私は別にどちらの肩を持つわけではないのですが、どちらにも「相手を正論で追い詰めるな」と言いたいのです。

仕事ですからお互いに多少戦うのは仕方がありませんが、正論で相手を追い詰めてはいけない。

正論は相手の逃げ道を奪い、死に物狂いにさせてしまう愚策です。

そんなことをしても誰も何も得をしない。待っているのはお互いの壊滅で御座います。

正論を振りかざし、相手を追い詰めていいのは、相手を全面戦争で徹底的に叩き潰す予定の時だけ。

全員を叩き潰すつもりなら、相手が食ってかかって来ようと構いませんから正論を振りかざしても良いでしょう。

例えば同じく第二次世界大戦の中で、1942年に日本がアメリカとの戦争に突入した原因は「ハルノート」というコーデル・ハルという政治家が提案した交渉が決定的でした。これは正論かどうかはともかく、日本を徹底的に追い詰める内容でしたが、そもそもアメリカは「日本が追い詰められて、アメリカに攻撃を仕掛けること」を望んでいたからこそ、この追い込みを行ったのです。

逆に太平洋戦争後の統治が、ヴェルサイユ条約と比較すれば極めて甘かったのは、追い詰めると何をしでかすか分からない、ということをきちんと理解していたからではないでしょうか。

冷戦という事情もありましたが、それでも追い込みすぎはダメということを歴史から理解していたのだと思います。

繰り返しになりますが、正論は相手の逃げ道を潰し、相手を死にものぐるいにさせる愚策中の愚策です。相手を潰すことが出来るかもしれませんが、こちらもまた多大な被害を被ることを避けては通れない。それどころかこちらが壊滅的な被害を受けて叩き潰されてしまう可能性だって十分にあるのです。

12 件のコメント

  • 途中まで感心して読んでいましたがブラック企業を非難するのは悪手だと正論をかざした所で読むのを止めました

  • ためになりました
    ネットだと匿名で正論を振りかざせますもんね…
    相手がどう受け取るかお構いなしに

  • 相手が退職直前にも関わらず真っ当な引継ぎをしない社員だったり、職務を何の相談もなく投げ出すような社員だったりした場合、逃げられる前に正論で徹底的に追い詰めなければならないと思いますが、いかがでしょうか。

  • 非常に興味深く読ませていただきました。わたしも以前、何故正論はダメなのだろうかと考えたことがあります。
    私なりの結論は、正論は平等。友人に対しても、友人の敵に対しても。友人関係においては友人の肩を持つべきなので、正論は適切でない。でした。
    あと、正義論とかの宿命なのですが、現状への批判ないし批判を基礎とした論になりがちだということも疎まれる原因だとも思いました。
    でも、なるほど、相手を追い詰めるとろくなことはないというのも、ほんとうにそうですね。人は図星をつかれると怒りますから。

  • ハーグ陸戦協定の基本的な考え方ですね。
    相手を追い詰めすぎるな。追い詰めると、逆に、統治者が個人的な地位を守るために和平が遅れてしまうので、ほどほどにしておけと言われてます。残念なことに、今では、見向きもされてませんが。

    個人的には正論と言っても、論理的に正しいだけで、裏には何らかの感情が隠れていると思います。ブラック企業については、おっしゃられているようなことがあるのでしょう。私だけかも知れませんが、一面だけを指す正論に別の正論を合わせるようにしてます。
    ブラック企業を言うならブラック社員だっていますよ。ろくに働かないで給料だけとっていく連中のことです。こういう奴らがいるから仕事が進まない(残業代目当てにしている連中を含む)。それを合わせると、意外と、感情的には落ち着くことが多いです。

  • > 途中まで感心して読んでいましたがブラック企業を非難するのは悪手だと正論をかざした所で読むのを止めました

    分かる。それ言い出したら結局無法地帯を許す事になるし、現に死人が出てるのを看過する事になる。
    殲滅するしかない。

  • 正論を言うなっていう正論を振りかざしてませんか?
    もうすでにコメントの中であなたを敵視している方もいますよ?
    「こういう正論記事を書くとこうなる、反面教師にしよう」という話でしょうか

  • とても為になったです。
    もう少し読もうとリンクみてみたら。
    偽証罪に飛んだみたいです。
    中止犯の話は(刑法43条但書)
    ってなってるみたいです。

  • 正論を武器にするやつは正しくない、ってやつですね。
    物事には多面性がありますしね。
    まともに引き継ぎしない、とか投げ出すよな社員って
    正論叩きつけても通じないこと多いです。
    そういう人にはそういう人なりの「正論」があるので。すごく身勝手な言い分だな と思ったことあります。
    でも相手から見たらこちらがおかしい、ってなってた。

    「簡単にできる人ややれる人がやる、それが正しい。できない僕やりたくない僕がやらされるのはおかしい」になってました。
    大多数の真面目な社員がそれでも「自分の仕事しろ」と責めた結果 ウツ 引きこもりになり
    傷病手当申請、自殺未遂、です。

    働かせたかったら「正論」を武器に選んでも
    通用しない輩は 沢山います。
    物事には多面性があるのでどこからみても
    「絶対正義」となる事って本当に滅多にないと思いました。
    逆に共通の「絶対正義」があれば世界は過激な戦争を
    しなくなるのかもしれないなぁと思いました。

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